
子宮内や膣内の細菌環境が、妊娠や出産に影響を与えることがわかってきました。しかし、体内の細菌環境について正確に把握することは簡単ではありません。
そこで活用したいのが、子宮内フローラ検査および膣内フローラ検査(膣内細菌叢検査)です。
この記事では、両検査の方法や意義、細菌環境の改善方法などについて解説します。
このページの監修医師

上野駅前婦人科クリニック 院長
杉浦由紀子
2011年東海大学医学部医学科卒業。日本産科婦人科学会専門医として、都立病院の産婦人科やレディースクリニックの経験を経て、2023年6月16日に上野駅前婦人科クリニックを新規開院。
目次
そもそもフローラとは?
人体における「フローラ」とは、特定の器官での細菌の集まりを指します。
例えば、「腸内フローラ検査」や「口腔内フローラ検査」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。これらは「腸内や口腔内にどのような細菌が、どれくらいの割合でいるか」を調べるための検査です。
近年、子宮内や膣内の細菌環境が妊娠や出産に大きな影響を与えることがわかり、「子宮内フローラ」「膣内フローラ」という言葉が注目されるようになりました。
両者について解説します。
子宮内フローラ
長年「子宮内は無菌」とされていましたが、近年、実は子宮内にも細菌が存在していることがわかりました。
また、「ラクトバチルス(乳酸桿菌:にゅうさんかんきん)」と呼ばれる細菌が、妊娠や出産などに大きな影響を与えることもわかっています。
子宮内にどのような細菌がどの程度存在しているのか、特にラクトバチルスの割合を指して「子宮内フローラ」という言葉が使われることが多いです。
くわしくは、下記の「子宮内フローラ検査とは?」以降をご覧ください。
膣内フローラ
「膣内フローラ」とは膣内の常在菌の種類や割合を表す言葉です。膣内にはさまざまな細菌が存在し、細菌叢(さいきんそう)という環境を作っています。膣内フローラは、性病感染率や着床率、妊娠率、流早産率などに大きな影響を与えるのです。
子宮内フローラ同様、ラクトバチルスの働きが重要視されています。
くわしくは、下記の「膣内フローラ検査とは?」以降をご覧ください。
子宮内フローラ検査・膣内フローラ検査がおすすめな人
- ・妊娠を望まれている方
- ・なかなか妊娠ができず悩んでいる方
- ・不妊治療の効果が得られない方
- ・流産や早産を繰り返している方
- ・自分の子宮内や膣内の環境を知りたい方
- ・慢性的なおりもの異常で悩んでいる方
子宮内フローラ検査とは?

子宮内フローラ検査とは、子宮内に存在する 善玉菌・ラクトバチルス属菌の割合を調べる検査です。ラクトバチルスの存在の有無だけでなく、割合まで調べられるので、より詳細に子宮内の細菌環境を把握できます。
合わせて、子宮内に存在する悪玉菌についても検査可能です。
子宮内フローラ検査の方法

まずは専用の細胞採取器具を用いて、子宮内から検体を採取。その後、採取した検体を検査機関に送り、検体からDNAを取り出します。
取り出したDNAを高精度の検査機器にかけて分析することで、子宮内の細菌環境がわかるのです。
検査結果は検査機関に到着からおよそ3週間で返却されます。
子宮内フローラ検査は痛い?
「子宮内フローラの検査は痛い」という声をよく耳にします。検査時の痛みは子宮の形や、採取時に用いる器具によっても異なりますが、我慢できないほどの強い痛みを生じることはめったにありません。
検体の採取は数秒で終わるため、たとえ痛みを感じたとしてもほんの一瞬です。
どうしても痛みに対して大きな不安がある方は、検査前に医師にご相談してください。
子宮内フローラ検査の意義
子宮内フローラ検査は、生殖器内の健康状態や妊娠のしやすさなどの把握に効果的です。ラクトバチルスの割合が多ければ、悪玉菌の増殖を抑え、生殖器内の炎症を抑えられます。
また、ラクトバチルスの割合が妊娠や出産に影響を与えることも判明しています。
子宮内フローラ検査を行うことで、自分の子宮内の細菌環境を正しく知ることができるとともに、現状に基づいた改善策を実施できるのです。例えば、不妊治療の計画を立てる際や、繰り返す流産や早産の原因究明の際に役に立ちます。
妊娠・出産に影響を与える子宮内フローラ

研究によって、子宮内フローラが妊娠や出産に大きな影響を与えることがわかりました。
子宮内のラクトバチルスの割合が 90%以上の女性と、子宮内のラクトバチルスの割合が 90%未満の女性の妊娠率及び生児獲得率を比較した結果は以下の通りです。
ラクトバチルスの割合 90%以上 |
ラクトバチルスの割合 90%未満 |
|
---|---|---|
妊娠率 | 70.6% | 33.3% |
生児獲得率 | 58.8% | 6.7% |
以上から、子宮内のラクトバチルスが少ない女性は、多い女性に比べて妊娠および生児獲得がしにくいといえます。
参考:Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure
子宮内フローラ検査の結果ごとに必要な対応
子宮内フローラ検査によってラクトバチルスが少ない、または存在しないことや悪玉菌が多いことが判明した場合もご安心ください。正しい処置を行うことで、改善できる可能性は大いにあります。
課題ごとに必要な対応をご紹介します。
ラクトバチルスが少ない
食生活および生活習慣の見直しが必要です。必要な栄養素を摂取するなどの対応で、ラクトバチルスが増えやすい子宮内環境を目指せます。
ラクトバチルスがいない

ラクトバチルスが含まれる発酵食品やサプリなどによって、ラクトバチルスそのものを摂取します。また、生活習慣の見直しも効果的です。
当クリニックではラクトバチルスを配合したサプリメントを取り扱っております。
悪玉菌が検出された
ラクトバチルスが少ないときと同じように、食生活や生活習慣の見直しが主な対策です。さらに、抗菌薬によって悪玉菌を殺菌することもあります。
子宮内フローラ検査の注意点
正確な検査結果を得るためには、子宮内から汚染されていない検体を採取する必要があります。そのため、患者様の健康状態などによっては、検査が受けられない場合もあります。子宮内フローラ検査が受けられない方は以下の通りです。
子宮内フローラ検査が受けられない人
- ・妊娠中の方
- ・月経中の方もしくは月経後3日以内の方
- ・子宮内感染症の方
- ・膣炎の方
- ・骨盤炎症性病の方
- ・凝血異常の方(バイアスピリン、抗凝固剤等内服中の方も含む)
- ・検査時に不正出血がある方
自分が検査を受けられるかどうか不安な方や、検査について心配なことがある方は、お気軽に医師にご相談ください。
膣内フローラ検査とは?

膣内フローラ検査とは、膣内の細菌環境を調べるための検査です。膣内にはラクトバチルスをはじめとする、さまざまな常在菌が存在します。
常在菌の働きによって膣内の衛生状態が保たれたり、妊娠しやすい環境が整えられたりするのです。
膣内フローラ検査によって膣内の細菌状態を把握することで、膣トラブルの防止や妊娠計画の立案、流産や早産の原因究明などの役に立ちます。
膣内フローラ検査の方法

まずは専用の細胞採取器具を用いて、膣内の検体を採取。その後、採取した検体を検査機関に送り、検体からDNAを取り出します。
取り出したDNAを高精度の検査機器にかけて分析することで、膣内の細菌環境がわかるのです。
検査結果は検査機関に到着からおよそ3週間で返却されます。
膣内フローラが乱れるデメリット
膣内フローラが乱れる主なデメリットは「子宮内膜炎のリスク増加」と「妊娠・出産への悪影響」の2つです。 それぞれ解説します。
子宮内膜炎のリスク増加
膣内フローラが乱れ、ラクトバチルスをはじめとする善玉菌の割合が減少すると、膣の自浄作用が低下します。
その結果、慢性的な子宮内膜症のリスクが増加するのです。子宮内膜症は、下腹部痛や不正出血、おりもの異常、発熱などさまざまな症状を引き起こします。
妊娠・出産への悪影響
子宮内膜炎を発症すると子宮内膜の免疫が活性化します。すると免疫細胞が受精卵を異物として認識し、攻撃するようになるのです。受精卵が攻撃されることで着床が妨げられ、妊娠率の低下へとつながります。
また膣と子宮はつながっているため、膣内の細菌環境の乱れは、子宮内の細菌環境の乱れを引き起こしやすいのです。
先述した通り、子宮内の細菌環境が乱れてラクトバチルスが減ると、妊娠率も生児獲得率も大きく減少します。
膣内フローラの改善方法
膣内フローラが乱れる原因は、ストレスや食生活の乱れ、不規則な生活、過剰な膣内の洗浄などです。
逆にいえば、これらを避け、バランスのよい食事や規則正しい生活を心がければ、膣内フローラの改善が見込めるということです。膣内フローラの乱れが気になる方は生活習慣の改善を意識しましょう。
またサプリメントの摂取も効果的です。具体的な改善方法は、担当の医師にもご相談ください。
膣内フローラ検査の注意点
膣内フローラ検査も、子宮内フローラ検査と同様に、汚染されていない検体を採取しなければ、正確な検査結果が得られません。そのため、患者様の健康状態などによっては、検査が受けられない場合もあります。子宮内フローラ検査が受けられない方は以下の通りです。
膣内フローラ検査が受けられない人
- ・月経中の方もしくは月経後3日以内の方
- ・検査時に不正出血がある方 など
なお、膣内フローラ検査は膣から検体を採取するため、子宮への刺激はありません。そのため、妊娠中の方でも検査可能です。
自分が検査を受けられるかどうか不安な方や、検査について心配なことがある方は、お気軽に医師にご相談ください。
子宮内フローラ・膣内フローラの検査費用
子宮内・膣内フローラ検査は自費診療(保険外診療)のため、各種クレジットカードがご利用いただけます。 費用は税込価格です。
子宮内フローラ検査 | 46,000円 |
---|---|
子宮内フローラ再検査 | 41,000円 |
膣内フローラ検査 | 29,000円 |
膣内フローラ再検査 | 24,000円 |
フローラ検査はブライダルチェックと同時がおすすめ
子宮内フローラ検査および、膣内フローラ検査の主な目的の1つは、妊娠や生児獲得のしやすさについて調べることです。
そのため、結婚前のカップルや妊娠計画を立てている夫婦などにも向いている検査といえます。
上野駅前婦人科クリニックでは、妊娠・出産に悪い影響を与える疾患や感染症がないかどうかを調べる「ブライダルチェック」を提供しています。
子宮内フローラ検査や膣内フローラ検査とブライダルチェックを同時に行うことで、詳細な現状の把握が可能です。
くわしくは上野駅前婦人科クリニックのブライダルチェックをご覧ください。
子宮内・膣内フローラ検査に関する
よくあるご質問
子宮内フローラ検査・膣内フローラ検査に関するよくあるご質問をまとめました。
- 子宮内フローラ検査は意味がないと聞きました。本当ですか?
- A.これまで、子宮内の細菌環境と妊娠率や生児獲得率との関係を示すデータが少なく、その結果「子宮内フローラ検査は意味がない」という意見があったのは事実です。
しかし、子宮内のラクトバチルスの割合と妊娠率・生児獲得率の関係を調べた研究もあり、近年は子宮内の細菌環境の重要性が認知され始めています。妊娠を望む方が子宮内フローラ検査を受ける意義はあります。
- フローラ検査は保険適用ですか?
- A.いいえ、子宮内フローラ検査、膣内フローラ検査ともに保険適用外です。全額、自己負担での検査ですので、あらかじめご了承ください。
- フローラ検査は痛いですか?
- A.子宮内フローラ検査では、膣から検査器具を深く挿入するため、生理痛に近い痛みを感じる方もいます。
しかし我慢できないほど強い痛みではなく、痛みを感じる時間も一瞬のため、過度の心配は不要です。どうかご安心ください。
- フローラ検査はどのようなタイミングで受けると良いのでしょうか?
- A.フローラ検査は基本的に、どのようなタイミングで受けても問題ありません。
実際には「結婚を気に妊娠を望むようになった」「流産を繰り返してしまった」「いくら検査しても不妊の原因がわからない」などの理由で検査を考える方が多いです。
- どうすれば子宮内フローラや膣内フローラを改善できますか?
- A.子宮内フローラや膣内フローラの改善のためには、食生活の見直しや規則正しい生活が効果的です。悪玉菌が多い場合には、抗菌薬を処方することもあります。
また、ラクトバチルスが少ない方は、サプリメントの摂取も効果的です。1日に1カプセルを目安に飲むだけなので、手軽に細菌環境の改善が図れます。当クリニックではプロバイオティクスⅢという、4種類の乳酸桿菌を配合したサプリメントを販売しています。
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2023/8/16
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