月経中だけでなく、月経前に心や身体の不調を感じる女性は70~80%と少なくありません。下腹部や頭痛、気分が不安定になるなどの症状は、「PMS」と呼ばれる月経前症候群の可能性が高いといえます。
ここではPMSについてや、症状・原因、ご不安に感じられることの多い妊娠初期症状との違いについて説明します。
このページの監修医師
上野駅前婦人科クリニック 院長
杉浦由紀子
2011年東海大学医学部医学科卒業。日本産科婦人科学会専門医として、都立病院の産婦人科やレディースクリニックの経験を経て、2023年6月16日に上野駅前婦人科クリニックを新規開院。
目次
PMS(月経前症候群)とは?
PMSはPremenstrual Syndromeの略であり、日本では「月経前症候群」と呼ばれています。その定義について、日本産科婦人科学会では下記のように述べています。
月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するもの
引用元:日本産科婦人科学会|月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)
PMSの原因は、女性ホルモンの低下による、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常が関係していると考えられています。しかし、脳内のホルモンや神経伝達物質はストレスなどの影響を受けやすいため、PMSは女性ホルモンの低下だけが原因でなく、さまざまな要因が組み合わさって起こるとされています。
PMS治療は何科に受診すればいいの?
PMSの治療は婦人科で行っています。上野駅前婦人科クリニックでは患者様の症状を伺い、必要に応じて検査やお薬の処方をしています。PMSのご相談をいただき、いきなり内診台で診察を行うケースはほとんどありません。内診台にあがることに抵抗がある方も、安心してご来院ください。
生理前に起こりやすいPMS症状8つと原因
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01
下腹部痛や腰痛
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02
吐き気
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03
気分が落ち込む、イライラする
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04
胸の痛みや張り
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05
眠気や倦怠感
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06
37度近くの発熱・頭痛
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07
過食
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08
むくみ、体重増加
PMSの症状はさまざまであり、生活に支障が出るほど症状を強く感じる方は、女性の5.4%程度といわれています。ここでは、月経前に起こりやすい代表的なPMS症状と原因についてくわしく説明します。
下腹部痛や腰痛
月経前の下腹部痛・腰痛の原因は「プロスタグランジン」と呼ばれる物質が関係しています。プロスタグランジンは子宮の収縮を起して、経血を体外に排出する役割を担っていますが、同時に痛みや炎症、発熱を起こす物質でもあります。月経に向けてこの物質の分泌量が増えるため、下腹部痛や腰痛が現れることがあります。
吐き気
月経前の吐き気や胸焼けは、下腹部痛や腰痛と同じ「プロスタグランジン」が原因です。この物質は過剰に分泌されると、筋肉の収縮作用を起こします。それにより胃や腸が締め付けられ、吐き気を発生させてしまうのです。
気分が落ち込む、イライラする
痛みや倦怠感などの身体的症状と同じく、心の不調もまだ原因ははっきりと分かっていません。ですが、女性ホルモンの大きな変化により、精神を安定させる働きを持つセロトニンやγ-アミノ酪酸に影響を与えている可能性があるとされています。精神症状が強く現れる状態をPMDD(月経前不快気分障害)といい、精神科での治療が行われるケースもあります。
くわしくは「PMDD(月経前不快気分障害)とは?」をご覧ください。
胸の痛みや張り
月経前は黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が活発になって乳腺内の血管が拡張し、圧迫感が現れます。また、黄体ホルモンの影響でむくみが生じやすくなっているため、より乳房の張りを感じやすい時期といえます。
眠気や倦怠感
月経前の強い眠気や倦怠感は、深部体温の変動が関係しています。通常であれば、深部体温は日中に高まって身体を活発にし、夜の休息に向けて徐々に低下していきます。ですが、月経前は日中の深部体温が上がりにくく、夜になっても下がりにくい状態が続きます。そのため、昼に眠気や倦怠感を感じるにもかかわらず、眠りが浅かったり、夜中に何度も目を覚ましてしまったりします。
37度近くの発熱
月経前は黄体ホルモン(プロゲステロン)によって、体温が0.3〜0.6度ほど上昇します。「黄体期(高温期)」と呼ばれる排卵後から月経前の期間は、妊娠を手助けする黄体ホルモンが多く分泌されるため、基礎体温が上昇して微熱を感じることがあります。
頭痛
月経前は、卵胞ホルモン(エストロゲン)が急激に低下します。これによりセロトニンを活性化することができず、血管の収縮と拡張が生じて頭痛が起きやすくなるとされています。鎮痛剤を服用する場合は、痛みが強くなってからよりも、痛みを感じてすぐや、痛みがきそうなタイミングでの服用が効果的です。
過食
「たくさん食べても満腹感が得られず、ついつい食べすぎる」「甘いものがいつも以上に欲しくなる」といった症状の原因は、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌にあります。黄体ホルモンが大量に分泌されると、血糖値のコントロールがしにくくなり、空腹を感じやすかったり、糖分をいつもよりも欲したりする傾向が強まります。
むくみ、体重増加
月経前は黄体ホルモン(プロゲステロン)の増加により、「むくみ」「食欲増進」「胃や腸機能の低下」が起こります。
むくみ |
黄体ホルモンは、皮下細胞に水分を貯める作用があります。これが、全身のむくみや乳房の張りにつながります。 |
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食欲増進 |
黄体ホルモンが分泌されると、血糖値のコントロールがいつもよりも安定せず、空腹を感じて食べる量が増加します。 |
胃や腸機能の低下 |
黄体ホルモンの増加によって、腸の運動機能が低下し、胃もたれや便秘が起きやすくなります。また、食道括約筋の緩みによって逆流性食道炎を起こしやすくなるため、食欲が増進する期間ではありますが、一気に大量の食事を摂ることは避けましょう。 |
生理前のPMS症状と妊娠初期症状の違い
妊娠初期症状と月経前のPMS症状はとても似ているため、判断が難しいといえます。
PMSと妊娠初期で共通する症状 |
腹痛・腰痛・頭痛・胸の張り・便秘・倦怠感・眠気・イライラ・不安感など |
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妊娠の可能性があり、妊娠初期症状かPMS症状かが分からない場合は、基礎体温の測定や妊娠検査薬を使用しましょう。妊娠していた場合、基礎体温は変化せずに高温期が続く点が特徴です。
妊娠検査薬は、月経予定日から1週間後であれば精度が高い検査結果が出ます。月経予定日から1週間を待たずに検査すると、妊娠しているにもかかわらず陰性結果が出る可能性が高まります。実際に使用する妊娠検査薬の取扱説明書に記載のある、正しい期間に行いましょう。
PMSの治療法は?薬で治るの?
数日我慢すればいいだけだから、とPMSの症状を放置してしまう方も少なくありません。しかし、PMSの辛い症状はお薬やセルフケアで改善が可能です。
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01
低用量ピルや漢方を用いた治療
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02
セルフケアによる治療
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03
PMSレス注射による治療
低用量ピルや漢方を用いた治療
薬を用いた治療は、「排卵抑制療法」「漢方療法」「対症療法」が有効です。
排卵抑制療法 |
排卵抑制療法 低用量ピルを用いて排卵を抑制させる治療法です。PMSは排卵後に女性ホルモンの分泌量が大きく変化することで起こります。低用量ピルは女性ホルモンの変動を抑え、一時的に排卵をストップするため、PMS症状に有効な治療薬です。 低用量ピルは服用中止後2~3カ月で排卵が再開するため、服用によって妊娠しにくくなったり、出産に影響が出たりすることはありません。月経痛や月経に関するトラブルにも効果が期待できます。 |
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漢方療法 |
PMSの原因は完全に解明されていないため、低用量ピルの服用がお身体や症状に合わない方もいらっしゃいます。漢方は自然治癒力を高め、気・血・水の3つの面からアプローチを行います。日本産科婦人科学会では、PMS治療に使用される漢方薬として以下の6種類を挙げています。
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対症療法 |
対症療法とは、起こっている症状そのものに治療を行う方法です。例えば、腹痛・頭痛に対して「鎮痛剤」、気分の激しいアップダウンや抑えられない苛立ちに対して「精神安定剤」や「自律神経調整剤」を服用します。 ピンポイントで起こるつらい症状には対症療法が効果的ですが、別の症状が続いたり効果が見られなかったりする場合は、排卵抑制療法や漢方療法への移行や併用も検討が必要です。 |
セルフケアによる治療
薬を使わないセルフケアによる治療のためには、自分の現状を知ることが大切です。まずは症状が起きやすい時期や起こった症状を記載し、基礎体温と照らし合わせて症状の傾向を知りましょう。
自分のPMS症状の特徴が把握できたら、食生活や週間を見直し、自分が心地良いと思える範囲でセルフケアを継続しましょう。
心身を整えるカルシウムやマグネシウムは積極的に摂取して、カフェイン、アルコールを適量に抑え、可能な限り喫煙を控えてください。ゆっくりと湯船につかるなどのリフレッシュも有効です。
PMSレス注射による治療
PMSレス注射は、ビタミンB6を中心としたPMS症状の緩和に有効なビタミンや必須アミノ酸(トリプトファン)が配合された注射です。個人差はありますが、早い方では当日から症状が軽くなり、約3~4日効果が持続します。
上野駅前婦人科クリニックでは、PMSレス注射による治療を行っています。PMS症状でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
PMDD(月経前不快気分障害)とは?PMSとの違い
PMS(月経前症候群)の症状のうち、苛立ちや不安感、気分の落ち込みなどの精神症状をPMDD(月経前不快気分障害)といいます。精神医学的にPMDDは、うつ病と同じく抑うつ障害群の一つとして考えられています。
治療の第一選択、SSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)です。SSRIで効果が見られない場合や、副作用で服用の継続が難しい場合は、他の抗うつ薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬が処方されるケースもあります。
強いPMDD症状は、自分の意思で感情をコントロールしきれない点が特徴です。よくないと分かっていながら、他者に対して攻撃的になったり、ネガティブ思考が強まって感情的になってしまったりするため、周りの人との関係性を壊してしまう方もいらっしゃいます。
「メンタルのことで病院にいくのは恥ずかしい」「自分の意思が弱いから衝突してしまう」などと自分を責めず、しっかりと治療を行って快適に月経前の期間を過ごしましょう。
PMS(生理前症候群)は我慢せずにご相談を
月経に関連するトラブルや心身の不調は、ほとんどが婦人科で治療可能です。
PMS(月経前症候群)は1カ月のうち月経前の数日だけしか起こらないため、我慢してしまう方が多いかもしれません。ですが、月経前の10日間不調を感じている場合は、1年のうち120日つまり約3分の1を、ストレスを感じながら過ごしていることになります。
閉経まで長く付き合う身体の仕組みだからこそ、早めの治療を行って快適に過ごしましょう。上野駅前婦人科クリニックは、PMSをはじめとした女性のさまざまなお悩みに対応しているレディースクリニックです。ぜひかかりつけ医としてご利用ください。
PMSの検査はどんなことを行いますか?
- 生理周期はどうやって計算すればいいですか?
- A.PMSの検査は問診、血液検査、尿検査などによって行います。来院後、すぐに内診台に乗っての診察が始まることはありませんのでご安心ください。子宮や卵巣に疾患の可能性がある場合は、超音波検査や内診検査を行う可能性があります。
- 月経前のいつからいつまでの症状がPMSによるものですか?
- A.一般的には、月経前の3~10日の間続く症状がPMS(月経前症候群)です。排卵を終えて黄体ホルモン(プロゲステロン)が急増するタイミングとほぼ同じといわれています。個人差があるのはもちろん、年齢やお身体の状態によって症状が起こるタイミングや種類、強さも変動します。
- 中学生や高校生のような未成年にもPMSが起きることはありますか?
- A.月経の回数を重ねた20〜40代の方が、症状が強く出る傾向にありますが、初経を迎えた思春期頃から症状が出始める方も少なくありません。学業、部活、習い事に支障が出てお困りの方は、クリニックを受診しましょう。
- サプリメントでPMSの治療はできますか?
- A.サプリメントの摂取によって、一時的にPMS症状の緩和はできますが、治療自体は行えません。PMS治療については、上野駅前婦人科クリニックにご相談ください。
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